大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和34年(行)15号 判決 1965年3月01日

原告 都築雅師

被告 愛知県常滑市

主文

一、被告が原告に対し賦課した固定資産税中、昭和二八年度第三、四期分のうち各金六九〇円、昭和二九年度第一期分のうち金八三〇円、同年度第二、三、四期分のうち各金八二〇円を夫々超過する分について、原告は被告に対し納税義務を有しないことを確認する。

二、被告が訴外都築ように宛て発した同訴外人名義の昭和二九年度第一乃至第四期分固定資産税徴税令書について、原告が被告に対し納税義務を有しないことを確認する。

三、被告が訴外亡都築房四郎に宛て発した同訴外人名義の昭和三〇年度第一乃至第四期分固定資産税徴税令書について、原告が被告に対し納税義務を有しないことを確認する。

四、被告は原告に対し金二九、八七六円及び右金員中、金六、五九四円については昭和三四年五月一日から、金六、三四四円については同年七月一〇日から、金八、一三四円については同年一〇月一六日から、金八、八〇四円については同年一二月一〇日から、夫々、本裁判確定に至るまで日歩三銭の割合による金員を支払え。

五、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

(当事者双方の申立)

第一、原告の申立

一、被告が原告に対し賦課した昭和二八年度第三、四期、昭和二九年度第一乃至第四期分の各固定資産税中原告、訴外都築治郎兵衛、同都築ようの三名が共同相続をしたものと認定課税した固定資産に対する税額分について、原告が被告に対し納税義務を有しないことを確認する。

二、被告が発した訴外都築よう名義の昭和二九年度第一乃至第四期分固定資産税徴税令書について、原告が被告に対し納税義務を有しないことを確認する。

三、被告が発した訴外亡都築房四郎名義の昭和三〇年度第一乃至第四期分固定資産税徴税令書について、原告が被告に対し納税義務を有しないことを確認する。

四、被告は原告に対し、金二九、八七六円並びに右金員中六、五九四円に対しては昭和三四年五月一日から、六、三四四円に対しては同年七月一〇日から、八、一三四円に対しては同年一〇月一六日から、八、八〇四円に対しては同年一二月一〇日から本裁判確定の日に至るまで金一〇〇円につき日歩三銭の割合による金員を支払え。

五、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求めた。

第二、被告の申立

一、原告の請求はいずれも棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求めた。

(当事者双方の事実上の主張)

第一、原告の請求原因

一、原告先代都築房四郎は、昭和二二年八月二四日遺言公正証書を作成し、その所有に係る固定資産を、別表(一)の如くその妻訴外都築よう、長男の訴外都築治郎兵衛、次男の原告及びその妻訴外都築とみ子の四名にそれぞれ遺贈する旨の遺言をなしたが、昭和二三年一一月三〇日右房四郎が死亡し、右遺言の効力が発生し、原告等四名は右遺言通りの遺贈を受けた。そうして、原告、とみ子、ようの三名は昭和三三年一月二四日右受贈物件につきそれぞれ遺贈を原因とする所有権移転登記を了した。

二、しかるに、被告は原告の昭和二八年、二九年度の固定資産税につき、右亡房四郎の全固定資産を、その法定相続人よう、治郎兵衛、原告の三名が法定相続したものと認定し、その固定資産の課税標準額を三均分した上、之と原告固有の固定資産の課税標準額を合算したものを基準として固定資産税を賦課し、

(1) 昭和三四年四月三〇日原告に対する昭和二八年第三、四期、昭和二九年第一、二期の各固定資産税徴税令書に基き原告の恩給金より八、八〇四円を徴収し(以下第一次徴収と略称する。)

(2) 昭和三四年七月九日原告に対する昭和二九年第二、三、四期固定資産税徴税令書及びように対する昭和二九年第一期固定資産税徴税令書に基き原告の恩給金より八、八〇四円を徴収し(以下第二次徴収と略称する。)

(3) 昭和三四年一〇月一日ように対する昭和二九年第一乃至四期固定資産税徴税令書及び房四郎名義の昭和三〇年第一期固定資産税徴税令書、並びに原告に対する昭和二九年第三、四期、昭和三〇年第二期市県民税徴税令書に基き原告の恩給金より八、八〇四円を徴収し(以下第三次徴収と略称する。)

(4) 昭和三四年一二月九日房四郎名義の昭和三〇年度第一乃至第四期固定資産税徴税令書に基き原告の恩給金より八、八〇四円を徴収(以下第四次徴収と略称する)した。

三、しかし、右のうち原告固有の固定資産に対する昭和二八年第三、四期分各六九〇円、昭和二九年第一期分八三〇円、同第二期乃至第四期分各八二〇円以上合計四、六七〇円及び原告に対する昭和二九年第三、四期、昭和三〇年第二期各市県民税合計六七〇円については原告が納税義務を有することは認めるが、その余については以下述べる理由により原告は被告に対し納税義務を有しない。

すなわち、原告は第一項の如く遺贈を受けたのであるから受贈物件についてのみ固定資産税を課せられるべきであつて、亡房四郎の所有していた全固定資産につき法定相続をしたものとして課税した被告の処分は無効である。また法定共同相続と認定するならば徴税令書の納税人の指定は連名とするか、「何某外何名」とし、共有者全員に対し告知しなければならないのに拘らず、これをなさずに、亡房四郎の所有していた全固定資産に対する固定資産税額を分割して法定相続人各別名義の徴税令書により課税した被告の処分は違法無効である被告が、よう、房四郎に対し賦課した固定資産税について原告が納付すべき義務はなく、また、よう、房四郎名義の徴税令書をもつてしては原告に対し何等納税義務を発生せしめ得るものではない。

よつて、原告は、原告の申立第一乃至第三項の原告の納税義務不存在確認を求める。

四、次に、被告が徴収した第二項の税金中、右の如く原告に納税義務がないのに拘らずこれを徴収した分については、何等法律上の理由なく不法に徴収されたものであるから、これが返還を求める。従つて、

(1) 第二項(1)の徴収金額中原告固有の固定資産に対する昭和二八年第三、四期分税額各六九〇円、昭和二九年第一期分税額八三〇円の合計二、二一〇円を除外した差額六、五九四円。

(2) 第二項(2)の徴収金額中原告固有の固定資産に対する昭和二九年第二乃至四期分税額各八二〇円、合計二、四六〇円を除外した差額六、三四四円

(3) 第二項(3)の徴収金額中原告に対する市県民税六七〇円を除外した差額八、一三四円

(4) 第二項(4)の徴収金額八、八〇四円

以上合計二九、八七六円とこれに対する還付加算金として過誤徴収の日の翌日から本裁判確定の日まで一〇〇円につき一日三銭の割合の金員(国税徴収法第三条の六第一項)の支払を求める。

なお、原告は課税当初から原告固有の固定資産に対する固定資産税納付の義務を認め、常滑市長に対し、徴税令書記載の金額中その区分を明示することを求めたのに拘らず、これをなさず、また昭和三一年三月七日常滑市税務課長水野成治は原告に対し課税方法を訂正する必要を認めたのに拘らず、これを怠つているのであるから、原告は原告固有の固定資産に対する本税の納付を遅滞した責任は無く、附加金を納入すべき理由もない。

第二、被告の答弁及び抗弁

一、(一) 原告の請求原因第一項中、都築房四郎が原告主張の日時に死亡したこと、房四郎が原告主張の別表(一)の固定資産を所有していたこと、原告主張の如き登記が存することはいずれも認め、その余の事実は不知。

(二) 原告の請求原因第二項は全部認める。

(三) 原告の請求原因第三項中、亡房四郎の所有していた全固定資産を法定相続人三名が相続したものと認定し、法定相続人に対し各別名義の徴税令書により固定資産税を課税したことは認め、その余の事実は争う。

二、固定資産税は、固定資産の所有者に課せられるべきところ(地方税法第三四三条第一項)、土地台帳に登録されている個人が賦課期日前に死亡しているときは、同日において当該固定資産を現に所有している者に課せられることとなつている(同条第二項)しかして房四郎は昭和二三年一一月三〇日死亡しその法定相続人は原告、治郎兵衛、ようの三名であるから、亡房四郎の所有していた全固定資産は法定相続により右三名の共有に帰したものである。

仮に、原告主張の遺贈に関する公正証書があつたとしても、農地については知事の許可がないから所有権の移転がない許りでなく、右書面の内容からして、受贈者に対する遺贈物件について具体性、明確性を欠除し、又、該公正証書による遺言自体の効力について所謂受贈者間に争いがあり、原告、よう、及びとみ子に遺贈されたという物件につき昭和三三年一月二四日に至つてはじめて所有権移転登記がなされ、次いで同年四月二二日登記所(名古屋法務局知多大野出張所)から土地台帳保管庁である常滑市三輪出張所に対する土地登録済通知により土地台帳が訂正された。従つて遺贈があつたとしても、農地については勿論、農地以外の物件についても、それが土地台帳に登録されない限り法定相続の割合によつて課税さるべきであるから、房四郎の死亡によりその所有固定資産は法定相続人において法定相続分(本件においては各三分の一)に応じ、共同相続し共有するに至つたものと認定して別表(二)の如く課税、徴税した処分は正当である。

三、共有物に課せられた固定資産税は共有者である相続人全員に連帯納付義務があり(同法第一一条一項)、従つて都築よう名義の固定資産税についても原告に納付義務がある。

四、房四郎名義の昭和三十年度分の固定資産税については、原告及び治郎兵衛から被告に対し遺贈通り土地台帳に登録されるまで亡房四郎名義で課税して貰いたい旨の申出を受けたので、被告は原告及び治郎兵衛の了解の下に房四郎名義の徴税令書を治郎兵衛に、その副本を原告に送達した。このように右課税処分は実質的には相続人に対しなされたもので、相続人等に右の如く連帯納付義務がある以上、原告にも納税義務がある。

第三、被告の抗弁に対する原告の答弁

一、被告主張の抗弁事実中、房四郎が被告主張の日に死亡したことその法定相続人が被告主張の三名であつたこと、遺言公正証書の効力について争があつたこと、被告主張の日時、その主張のような登記がなされ、登記所からの通知により土地台帳が訂正されたことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

二、原告は、父房四郎死亡により前記遺言書が発効するや、固定資産税の徴税者である三和村当局次いで常滑市当局に対し遺言書を提示し、更には遺言の効力に関する第一審判決並びに昭和二七年一一月二九日確定の第二審判決、愛知県地方課作成の課税に関する回答、農地法第三条の所有権移転許可書、登記済証等を次々に提出して、原告が遺贈を受けた旨を説明して来たのであるから、被告は原告が遺贈を受けたことを十分知悉している。なお所有権移転登記が遅延した理由は常滑市農業委員会において原告申請の農地法第三条による許可が同委員会の都合により延びていたもので原告の責に帰すべきものではない。しかるに被告は依然として徴税方法を改めないのである。

(証拠)<省略>

理由

一、訴外亡都築房四郎が別表(一)記載の各固定資産を所有していたこと、同人が昭和二三年一一月三〇日死亡しその法定相続人は原告、訴外都築治郎兵衛及び同都築ようの三名であつたこと、別表(一)記載の各物件中、原告、右よう及び訴外都築とみ子の各受贈分につき、昭和三三年一月二四日遺贈を原因とする所有権移転登記がなされ、次いで同年四月二三日登記所からの通知により右登記に応じて土地台帳が訂正されたこと及び本件課税並びに徴収処分の経緯については当事者間に争いがない。

二、そこで先ず第一次徴収、及び第二次徴収のうち原告に対する昭和二九年度第二、三、四期各固定資産税徴税令書に基き原告の恩給金から固定資産税を徴収した措置について検討する。

地方税法第三四三条第一項によれば、固定資産税は固定資産の所有者に課するものとし、その所有者とは土地については土地登記簿若しくは土地補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者をいう(同条第二項前段)として、所謂台帳課税主義を採用しているが、所有者として登記又は登録されている個人が賦課期日前に死亡しているときは右期日において当該土地を現に所有している者が固定資産税の納税義務者となるものと規定している(同条第二項後段)。而して本件の場合、右房四郎所有の各固定資産が本件係争年度の各賦課期日である昭和二八年一月一日、同二九年一月一日、及び同三〇年一月一日当時いずれも同人名義を以て登記登録されていたものであり、且つ同人は右賦課期日前である昭和二三年一一月三〇日死亡したものであることは前記認定のとおりであるから、地方税法第三四三条第二項後段により右各固定資産についての固定資産税納税義務者は右資産を前記各賦課期日において現に所有しているものである。

そこで本件において右各賦課期日に右資産を現に所有している者は何びとであるかについて考えるに、成立に争いのない甲第一、三号証、原告本人尋問(第一、二回)の結果、同尋問(第一回)の結果により真正に成立したことの認められる甲第二号証を綜合すれば、右房四郎は生前その所有に係る固定資産を別表(一)記載の如く原告、よう、とみ子及び治郎兵衛の四名に遺贈する旨の遺言公正証書を作成したこと及び原告は右房四郎死亡により右遺言書が発効すると共に固定資産税の徴税者たる三和村当局及び町村合併によりその事務を引き継いだ常滑市当局に対し右遺言書を初め原告等と治郎兵衛間の遺言の効力に関する訴訟の第一、二審判決等を示して、原告が別表(一)の「原告受贈の分」記載の各物件の遺贈を受けた旨を縷々説明したにも拘らず、被告は右各物件につきいまだ登記簿上の名義変更がなされていないことを理由として本件課税処分をなしたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

ところで遺贈の効力は原則として遺言者の死亡の時からその効力を生ずること民法第九八五条第一項に規定するところであり、特定遺贈の場合遺贈物件の所有権は遺贈の効力発生と同時に受遺者に移転するものと解すべきである(大審院大正五年(オ)第四九一号同年一一月八日判決、民録二二・二〇八二参照)が、一方昭和二七年法律第二三〇号により廃止される以前の農地調整法(昭和一三年法律第六七号)第四条第一項によれば、農地について所有権を移転する場合にはその移転につき都道府県知事の許可又は市町村農地委員会の承認を必要とし、右許可又は承認のない限り物権変動に関する当事者の意思表示はその効力を生じないものというべきである。(最高裁判所昭和二七年(オ)第六五三号昭和三〇年九月九日判決、最高民集九・一〇・一二二八参照。)そうすると、本件において別表(一)記載の各不動産中「原告受贈の分」のうち常滑市久米字池田三六番地の一原野二二歩、「訴外都築治郎兵衛受贈の分」のうち同市久米字東太郎三四番地雑地二畝四歩、同五四番地山林六畝二五歩、同市久米字納子五一番地山林六畝三歩の四筆(以上はいずれも農地ではない)については房四郎の死亡と同時に右各物件の受遺者である原告及び治郎兵衛に夫々その所有権が移転したものであるが、右四筆を除くその他の各物件(以上はいずれも農地である)については、その所有権移転に関し本件各係争年度の各賦課期日前に知事の許可が得られなかつたのであるから、右房四郎の死亡により直ちに遺言に基く所有権移転の効果は生ぜず知事の許可が得られるまでの間は房四郎の法定相続人である原告、治郎兵衛及び右ようの三名の合有となるものと解すべきである。

従つて原告が本件各係争年度の各賦課期日において現に所有しているものは、原告固有の資産は別として、房四郎の遺産については同人の死亡と同時に所有権を取得した前記常滑市久米字池田三六番地の一原野二二歩と前記の法定相続により得た合有財産としての各農地であるから、被告としては原告に対し、原告の現に所有しているものは右の各資産であるとして固定資産税を課すべきであつたにも拘らず、原告の抗議を排して房四郎の全固定資産を原告等前記三名の法定相続人が法定相続したものと認定し、その固定資産の課税標準額を三均分した上、之と原告固有の固定資産の課税標準額を合算したものを基準として賦課した処分は違法であり、その瑕疵は重大且つ明白であるから無効の処分というべきである。よつて無効の徴税令書に基き原告の恩給金から右固定資産税を徴収した措置も亦違法たるを免れない。

三、次に第二次徴収のうち右ように対する昭和二九年第一期固定資産税徴税令書に基き原告の恩給金から固定資産税を徴収した措置及び第三次徴収のうち右ように対する昭和二九年度第一乃至第四期固定資産税徴税令書に基き原告の恩給金から固定資産税を徴収した措置につき検討する。

前記房四郎の遺産中農地を除くその他の物件は房四郎の死亡と共に各受遺者にその所有権が移転したが、農地については知事の許可の得られるまでの間は房四郎の法定相続人たる原告、右よう及び前記治郎兵衛の三名の合有となつたこと、及び右の如く被告が原告の抗議を排し右ように対する各固定資産税徴税令書に基き原告の恩給金から固定資産税を徴収したことは前記認定のとおりである。しかしながら、或る特定の固定資産税徴税令書に基いて固定資産税を徴収し得るのは当該徴税令書に名宛人として記載された者からだけであり、右名宛人以外の者からは該徴税令書に基いて固定資産税を徴収し得ないものといわなければならない。けだし、昭和三四年法律第一四九号により改正される以前の地方税法第一一条第一項に所謂連帯納税義務を規定しているが、右は実体法上納税者が連帯して納税する義務を負うと規定したに止まり、本件の如く仮令連帯納税義務者であつても他人を名宛人とする徴税令書に基き原告から固定資産税を徴収し得ることを許容する趣旨ではないからである。従つて右ように対する右各固定資産税徴税令書については、原告は被告に対し納税義務を有しないものであり、これに基き原告の恩給金から前記各固定資産税を徴収した被告の措置は違法たるを免れず、その瑕疵は重大且つ明白であるから無効の処分というべきである。

四、更に第三次徴収のうち房四郎に対する昭和三〇年度第一期固定資産税徴税令書に基き原告の恩給金から固定資産税を徴収した措置及び第四次徴収につき検討する。

地方税法は固定資産税につき台帳課税主義を採用していること、しかしながら所有者として登記登録されている者が固定資産税の賦課期日前に死亡しているときは右期日において当該固定資産を現に所有している者が固定資産税の納税義務者となるものと規定していること前記のとおりであるところ、右房四郎が本件係争年度の各賦課期日の前であること明らかな昭和二三年一一月三〇日死亡したことは当事者間に争いがなく、しかも本件各係争年度の各賦課期日において右房四郎の遺産を現に所有している者は別表(一)記載の「原告受贈の分」のうち常滑市久米字池田三六番地の一原野二二歩については原告、同「訴外都築治郎兵衛受贈分」のうち同市久米字東太郎三四番地雑地二畝四歩、同五四番地山林六畝二五歩、同市久米字納子五一番地山林六畝三歩の三筆については訴外都築治郎兵衛であり、その余の各農地については右房四郎の法定相続人たる原告、右治郎兵衛及び訴外都築ようの三名の合有であるから、地方税法第三四三条第二項により、房四郎の右遺産である固定資産についての固定資産税納税義務者は右の各所有者であること前記認定のとおりである。それ故右死亡者たる房四郎を納税義務者とする右各固定資産税徴税令書に基く賦課処分はいずれも違法であり、その瑕疵は重大且つ明白であるから無効といわなければならない。(仙台地方裁判所昭和二八年(行)第八号同三〇年一一月一六日判決、行政事件裁判例集六・一二・二七九八参照)

被告は、房四郎名義の昭和三〇年度分の固定資産税については、原告及び治郎兵衛から被告に対し、遺贈通り土地台帳に登録されるまで亡房四郎名義で課税して貰いたい旨の申出を受けたので被告は原告及び治郎兵衛の了解の下に房四郎名義の徴税令書を治郎兵衛に、その副本を原告に、夫々送達したのであり、かかる課税処分は実質的には相続人に対しなされたもので、相続人等に固定資産税の連帯納付義務がある以上、原告にも納税義務がある旨主張するが、証人水野成治の証言以外にはこれを認めるに足る証拠はなく、右証言はたやすく信用出来ない。もつとも乙第五号証の一によれば原、被告間において被告主張の如き協議がなされた旨の記載があるけれども、同証末尾の原告の氏名の下には原告の捺印がないことからすれば同証の記載を以て直ちに右の如き協議がなされたものと認めることは出来ない。よつて被告の右主張はその理由がない。従つて無効の徴税令書については、原告は被告に対し納税義務を有しないものであり、これに基き原告の恩給金から固定資産税を徴収した前記措置も亦、違法たるを免れず、その瑕疵は重大且つ明白であるから無効の処分というべきである。

五、以上の如く被告が原告に対してなした本件各係争年度の固定資産税の各賦課処分乃至徴税処分は右認定の限度においていずれも違法且つ無効であり、右無効の分については原告は被告に対し納税義務を有しないものである。従つて被告は原告に対し、

(1)  第一次及び第二次徴収により得た合計金一七、六〇八円のうち原告において被告に納付すべきことを自認する原告固有の固定資産に対する昭和二八年度第三、四期分固定資産税額各金六九〇円、昭和二九年度第一期分固定資産税額金八三〇円、同年度第二、三、四期分固定資産税額各金八二〇円の合計金四、六七〇円を控除した差額金一二、九三八円

(2)  第三次徴収により得た金八、八〇四円のうち、原告において被告に納付すべきことを自認する原告に対する市県民税金六七〇円を控除した差額金八、一三四円

(3)  第四次徴収により得た金八、八〇四円

の合計金二九、八七六円及び右金員中、右(1)のうちの金六、五九四円については第一次徴収の日の翌日である昭和三四年五月一日から、金六、三四四円については第二次徴収の日の翌日である同年七月一〇日から、右(2)の金八、一三四円については第三次徴収の日の翌日である同年一〇月一六日から、右(3)の金八、八〇四円については第四次徴収の日の翌日である同年一二月一〇日から、夫々本裁判確定に至るまで昭和三四年法律第一四七号により改正される以前の国税徴収法第三一条の六第一項に則り日歩三銭の割合による還付加算金を支払うべき義務を負うことは明らかである。

七、よつて原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村義雄 竪山真一 泉山禎治)

(別表省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例